トーク126
17/20

わせてあった。(中略)表は地に鳳凰と桐花を図案し金額と『管内通宝』の文字の下に『軍務所』という印がある」(松本清張『西郷札』より)。紙幣をモチーフに展開するこの短編、興味のあるかたはぜひご一読を! ところで紙幣といえば、その絵柄として人物の肖像を思い浮べる人も多いのではないでしょうか? 日本で初めてお札に肖像が描かれたのは1881(明治14)年発行の1円札で、その肖像とは神功皇后。つまり女性がトップバッターだったのです。しかし次の女性肖像画となる5000円札の樋口一葉が2004年に登場するまでには、100年以上の年月を要しています。 このように女性肖像画の紙幣が少ないのは日本に限ったことではないようで、女性肖像画を起用している紙幣は全体の1割にも満たないともいわれます。その明確な理由はわかりませんが、男性の偉人や英傑は髭をたくわえていたり、しわを多く刻んだりしている場合が多く、男性肖像のほうが複雑な線が必要で、女性肖像に比べて偽造しづらいからともいわれています。 さて、日本銀行が誕生したのは1882(明治15)年ですが、それ以降、現在までに発行された紙幣は約60種類(硬貨は約80種類)を数えます。この中から抜粋して、紙幣に登場した肖像画を発行年と金額とともにご紹介しましょう。なお、※印を付記した紙幣は現在でも額面通り使用できます。 大黒さんの姿を肖像といってよいかどうかはわかりませんが…、1885年・1円札「大黒像」※、1889年・1円札「武内宿禰(たけのうちのすくね)」※、1899年・10円札「和気清麻呂」、1943年・5円札「菅原道真」、1946年・1円札「二宮尊徳」※、1951年・50円札「高橋是清」※、500円札「岩倉具視」※、1953年・100円札「板垣退助」※、1963年・1000円札「伊藤博文」※など。そして1984年になって1000円札「夏目漱石」※、5000円札「新渡戸稲造」、10000円札「福沢諭吉」、2004年・1000円札「野口英世」とつづきます。では、なじみ深い「聖徳太子」はといいますと、1927年以来、7回も新しいお札の肖像画として起用されており、過去最多となっています。 一方、世界の紙幣はどのような絵柄が描かれているのでしょうか。有名な建築物や風景、動物、その国の伝統文化や産業の様子が描かれていることもありますが、やはり海外の場合も人物の肖像が多く描かれています。人物でよく描かれているのは、その国の国王や建国・発展に尽力した政治家など。故人が多いものの、存命であっても描かれる場合もあり、イギリスのエリザベス女王陛下はその一例といえます。 歴史をのぞいてみると、人物の肖像画は19世紀頃から世界中で使われるようになったようです。最初は女神や守護神といった像が描かれていましたが、19世紀中頃から国王や女王、大統領などの政治家の肖像を使用するように。第2次世界大戦後には西欧諸国において芸術家や文化人の肖像も多く採用され、その傾向が各国に広まっていったということです。 お金の歴史を「紙幣」に注目して見てみると、壮大な人間物語の多くの登場人物に出会っているような気がしませんか。彼、彼女たちは、経済を支えつづける縁の下の力持ち、ともいえるのかもしれません。人物の肖像が登場したのは明治時代から。もっとも多く起用されたのは聖徳太子。人物の肖像画は19世紀頃から世界の国々の紙幣で使われるように。15■聖徳太子の百円札(昭和21年から昭和31年頃)今昔けいざい物語

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です