トーク119
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いがありませんでした。このように、第Ⅰ期非小細胞肺癌に対する陽子線とX線の治療成績は、局所制御率に関しては同じ効果を示し、明らかな差が認められていないのが現状です。X線治療は保険診療です。これに対し陽子線治療は保険が認められていない先進医療です。効果が同じであれば、総費用の安価なX線治療を行うべきですが、現実には、陽子線治療は治療施設が増加しています。では、第Ⅰ期の非小細胞肺癌の放射線治療に於いて、X線治療と比較した場合、陽子線治療は、どのような利点を持っているのでしょうか。それは、副作用の少なさ、そして、副作用の軽さです。 2010年、Hoppeらは、第Ⅰ期非小細胞肺癌に対する陽子線とX線のSBRTの時に、同時に照射される正常組織の線量を比較しました。その結果、心臓・食道・脊髄・気管・気管支において、陽子線治療のほうが明らかに線量が少なかったのです。同様の結果は2011年にRegisterらも報告しており、大動脈・気管支・心・肺血管・脊髄に於いて、陽子線SBRTでの線量がX線SBRTより少なかったのです。また、食道炎に関しては、2012年にGomezらは、陽子線治療で線量が軽減し、炎症の程度の軽い食道炎が陽子線治療群に多かったとの結果を報告しています。 このように、腫瘍制御率は差がないものの、周囲の正常組織への線量では陽子線治療が明らかに少ない結果を示します。この差は、X線治療に比べ陽子線治療では、治療中の副作用が少なく、治療後の後遺症が軽いという、体に優しい治療であることを物語っているのです。 名古屋市では、2007年2月の「苦しまないがん治療検討委員会」からの提言書を基に、健康福祉局の「クオリティライフ21城北」の一事業として名古屋陽子線治療センターの建設を行いました(図3)。当センターは、名古屋市立西部医療センターの北側に在り、体の全周360度のどの方向からも照射可能なガントリー照射室(図4)を2室と、水平固定照射室が1室あります。これらの治療室に陽子線を供給するシンクロトロンは、直径約7メートル、1週約23メートルのリング状の装置で、リニアックで加速した陽子を取り込み、数10万から数100万回回転させることで、最大で光速の60%まで加速します。この間の所要時間は一秒以内です。2室のガントリー照射室は各々照射方法が異なります。1室ではスポットスキャンニング照射が行われますが、この照射方法は日本国内では初めて名古屋陽子線治療センターに導入されました(図5)。加速器から送られてきた細い陽子線を利用し、がんの部分を塗りつぶすように照射する最先端の技術で、これにより、がんの形に合わせた照射を実現し、さらに正常組織の損傷を抑えることが可能となります。もう1室のガントリー照射室は二重散乱体照射が導入されており、主に肺癌や肝臓癌などの呼吸性移動を伴う腫瘍の治療に適しています(図6)。また、固定照射室も二重散乱体照射が導入されており、水平方向から陽子線を照射し、現在、前立腺癌の治療が行なわれています。固定照射室ガントリー照射室 2ガントリー照射室 1入射器(イオン源・ライナック)ガントリー加速器(シンクロトロン)図4:回転ガントリー照射室図3:名古屋陽子線治療センター鳥瞰図(名古屋陽子線治療センターホームページより)図5:スポットスキャンニング照射法(名古屋陽子線治療センターホームページより)【ビーム走査法(スポットスキャニング法)】細いビームを電磁石で走査し、患部領域内に合致する線量分布を形成します。体表レイヤ(層)患部スポット陽子ビーム走査電磁石ビーム位置制御陽子シンクロトロン陽子線エネルギーを制御して陽子線到達深さを調整患部を数千の微小領域(スポット)に分けて照射12

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