トーク119
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ます。最近のX線治療は、照射方法や照射装置が進歩し、特に、腫瘍周囲の正常臓器への線量が大きく軽減されています。IMRT(強度変調放射線治療;intensity modulated radiotherapy)やSRT・SBRT(定位放射線治療・体幹部定位放射線治療;stereotactic radiotherapy・stereotactic body radiotherapy)等の照射方法が普及し、正常臓器への影響を極力抑えた放射線治療が行われています。 これに対し、陽子線は炭素イオン線等と同じく粒子線と呼ばれ、大型の加速器から発生します。荷電した粒子の性格を持っており、体内に入射後、加速エネルギーに応じた深さで粒子が停止し、その止まる部位で最大のエネルギーを照射します(ブラッグ ピーク)。X線と陽子線を比べると、体内に入ってから目標の腫瘍までは陽子線がX線に比べ低い線量で通過し、腫瘍の内部では陽子線は均一な線量を照射し、腫瘍を通過すると陽子線は停止します(図2)。腫瘍の前後に存在する色々な正常臓器の線量が、X線に比べ陽子線治療では低い線量で照射されるのが特徴で、治療に伴う副作用が少なくなります。 陽子線治療は、1954年に米国のローレンスバークレイ研究所(LBL)で開始されました。1957年までに30例の治療を行い、その後LBLではヘリウムや、炭素・ネオン・シリコン・アルゴン等のイオン線の臨床試験を行っています。その間、ボストンのハーバードサイクロトロン研究所(HCL)でも1961年から陽子線の臨床試験が始まり、下垂体腫瘍や前立腺癌の臨床試験を行っています。この頃の治療装置は、主に物理学的研究の為の大きな加速装置に併設されることが多く、その為、広い敷地が確保できる比較的郊外に設置されていることが多かったのです。従って、治療を受けるためにはかなりの距離を移動する必要があり、患者さん達にとっては不便な治療だったのです。その為に、治療患者数も増えず、陽子線治療の有用性を証明するに足る治療結果は、なかなか生まれませんでした。しかし、1990年に、カリフォルニア州ロマリンダ大学(LLUMC)で病院隣接型治療装置が動き出し、以降、LLUMCでは前立腺癌を始め、多くの癌への治療が行われています。これ以降の施設は、基本的には病院に設置された形の治療装置です。米国では、現在11か所で治療を行っており、さらに5か所で建設中です。 日本の陽子線治療は、1983年から筑波大学陽子線医学利用センター(PMRC)が、高エネルギー加速器研究所(KEK)を使用して行った臨床試験に始まります。その後1994年には病院隣接型の重粒子線がん治療装置(HIMAC)が放射線医学総合研究所(千葉)に設置され炭素イオン線治療が開始され、陽子線治療は1998年に国立がんセンター東病院(千葉)で臨床治療が開始されています。現在、日本では8か所で陽子線治療が行われており、2か所で建設中です。尚、日本では炭素イオン線治療も行われてまして、治療中の施設は3か所で、さらに2か所で建設中です。一方、アジアでの陽子線治療は、始まったばかりですが、中国(2004年から)と韓国(2007年から)で開始されており、また、幾つかの計画が進行中です。 欧米の陽子線治療は1957年のUppsala (Sweden)で開始され、以降、ロシア・スイス・ドイツ・フランス・イタリア等で行われており、現在、9か所で治療が行われています。 日本人の死亡率の、男性では1位、女性では2位を占める肺癌に対する陽子線治療を、IMRTやSBRT等のX線治療と比較してみます。2007年にHataらが発表した筑波大学のデータは、第Ⅰ期の非小細胞肺癌に対して行われた陽子線治療(10回の少分割照射)の成績が、癌の局所制御率で95%を示し、他の陽子線治療の成績74~95%と同様の結果でした。この報告と同じ頃(2001年~2006年)のX線治療(主にSBRT)の局所制御率は79~98%で、陽子線と違【X線治療】【陽子線治療】反対側も傷つけるポーラス病巣病巣X線X線陽子線陽子線肺肺肺肺心臓心臓脊髄脊髄図2:X線治療と陽子線治療の線量分布の違い(名古屋陽子線治療センターホームページより)11

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